おくりびと(多分ネタバレあり)

モッくんと呼ぶには申し訳ないほど、とてもたくましい俳優、本木雅弘氏主演のひょんなことから納棺師となった、もとチェロリストの男性の物語。
いい映画でした。



↓以下ネタバレありで。



納棺師の仕事ということで、さまざまな人の死が出てきますが、とても優しく丁寧に描いているのでそんなに嫌な感じはせず、崇高ささえ感じてしまいます。
ちょっとふざけてるかな、ってとこはあるけど(女性だと思ってたらついてたとか、ガングロ姉ちゃんを受け入れられない母とか。そこはなんか別にいい)、死者が生前どうしていたとか、こういうふうにしたかったとか、家族の意向をちゃんと受け入れて、個性を出しながらおくろう、というあたたかな優しさがあふれていて、涙が出ます。あ、でもこれって、現実のお葬式でも納棺師の方は本当にそうしてくれるんですよね(経験済み)。そして、所作の美しさもちゃんとスクリーンの上で表現されていてよかったです。



難を言えば、あまりに伏線がわかりやすすぎて、銭湯を一人で切り盛りしているお母さんが出てきたときはあー、これこの人もおくっちゃうなー、って読めちゃうし、その息子が同級生で、納棺師の仕事を忌み嫌ってるところも、あー、これお母さんを綺麗におくってもらって見方が変わるんだろうなーとか。確かに劇場に来ていた人はほとんどが60代以上のご夫婦だったので、それくらいのわかりやすさがないときっとダメだったのかもしれないけど。かなり興ざめでしたねー。
あと白鳥が飛び立つ演出もなんかいきすぎ。ちょっと古いかな。


ヒロスエは確かに可愛らしい新妻で、きっと男性スタッフがこういう女性を妻にしたいよねー、妻だったらこういうことしちゃいたいよねー(出かける前のハグ、台所での無駄なエロシーン、後ろからだっこして寝ちゃう)とかいう願望を見事に体現してるんだけど、主人公の妻的リアル感がないので残念。これは本人の技量うんぬんではなく、キャスティングミスかなー。と思います。納棺師という職業を受け入れられなくて、実家に帰ったくせに、ぱっぱと戻ってきちゃって、一件納棺を見たからってすぐ変われちゃうんだろうか・・・甘いなあ。


銭湯に来てたおじちゃんの決めゼリフは、きっと脚本家も監督も一番言いたかった死の表現なんだろうと思うけど、わりとどこかである表現だし、残念なことに私にはピンと来ませんでした。


(本文とはそれますが、まったく個人的なんですけど、死の表現としては野沢尚氏が名作『恋人よ』で、死を目前にした主人公に、手紙で書かせた台詞、
『結婚式が女性の晴れ舞台であるのと同じ意味で、死もセレモニーのひとつです。
死にも適齢期があって、それは人それぞれで違うだけなのです。』
これが私的にはナンバー1ですね。)


魂を鎮めるという意味でチェロの音色を使ったのは、非常に効果的で美しかったです。
メインとなる曲は、もうちょっとメジャーな曲でもよかったですね。
そこからすぐチェリストという職業にいってしまったのは短絡的でしたけど。よしとしましょう。



ということで、ばんばん言いたいこと書きましたけど、結局昭和のホームドラマかと思うほどわかりやすい筋書きと演出でしたが、あたたかく死を扱ったことでとても好感の持てる作品だと思います。
なんだかんだ言って、4回くらい泣きました。
モッくんみたいな男性がいたら、少々優柔不断で弱くても、即結婚したいと思います。